きものと伝統文化
きものと文化、人生の節目の儀式や行事などは、密接に関わっている。
茶道、能・狂言、日本舞踊などの文化にとって、きものは不可欠の要素であり、きものと日本の伝統文化は相互に支え合っている。
茶道、華道、香道、能、狂言、雅楽、邦楽、日本舞踊、歌舞伎、剣道、弓道、花街など
○ 儀式・行事
宮参り、七五三、十三参り、入学式、卒業式、成人式、結婚式、葬儀、正月、祭など
近年は、式場や衣装に和の文化を取り入れた和婚もブームになっている。
十三参りは、数えで十三歳になる男女が寺社にお参りする行事で、女子は、大人への区切りとして、子ども用に仕立てた「四つ身」のきものから、初めて大人の「本身裁ち」のきものを肩あげして着るもので、特に関西で盛んである。
○ 装束
唐織(からおり)、縫箔(ぬいはく)などの高度な技術が駆使された豪華絢爛な能装束、法衣や神職の装束、祭の装束などの製作には、有職故実、すなわち古来の朝廷や武家の礼式・典故・官職・法令・装束・武具などの豊富な知識や特殊な技術が求められ、その存在はきもの文化を重層的なものにしている。
また、きものは、日常生活の中にあって発展し、畳や襖などの和室のしつらえ、和食などとともに、日本の衣食住の文化をつくり、和の生活文化をつくってきた。
きものと季節、風物
きものは、自然と深く関わり、季節感を大事にしてきた日本人の感覚、和の心が色濃く反映され、四季の自然を様々に写している。
色や柄のなかに、日本特有の季節、風物を表現したものが多く見られる。
きものに用いられる伝統的な色の呼び名には、自然の風物を表しているものが多く、季節感が感じられる。また、茶人の千利休にちなんで、抹茶の緑色と侘び茶の雰囲気を連想していわれた利休色など、人名に由来するものもある。
十二単に代表される女性の重ね着の色合わせである「襲色目(かさねいろめ)」は、色の組み合わせで自然の色を表現している。
(色名の例)鶯色、桜色、山吹色、栗色、鳩羽色、桔梗色、若竹色、利休鼠
(襲色目の例) 葵(淡青/淡紫)、枯色(淡香/青)、椿(蘇芳/赤)
○ 柄
きものの柄は文様といい、身近な植物や動物、自然の風景、身の回りの品々などを元にしたものが多く見られる。緋扇や御所車など雅な柄は礼装、生活に密着した柄はお洒落着などに用いられる。
(文様の例)
松竹梅、菊、楓、菖蒲、鶴、蝶、御所車、手毬、瓢箪、
観世水(かんぜみず)、青海波(せいがいは)
○ 季節のきまりごと
きものの装いには、季節による決まりごとがあり、6月と9月は単(ひとえ)、7月と8月は絽(ろ)や紗(しゃ)など透ける薄物や麻、その他の季節は袷(あわせ)を着用する。色柄も四季の風物が描かれたものなどは季節に合わせ、少し先取りで身につけるのが粋とされる。
京都の年中行事や人々の暮らしは、四季の移り変わりに応じて、細かく配分されている。一年を四季、十二月、二十四節気、十日毎の旬、七十二候に分け、それに応じた数多くの行事を行いながら、季節が移り変わっていく様を大切に見つめ、日々の無事と自然への感謝を思いながら過ごしていくのである。
四季の変化を大切にする和の文化の特質が、きもの文化の特質にも通じている。
きもの由来の言葉
きものは、日本人の生活に深く根差しており、日本語の中にはきものに由来する言い回しが多く息づいている。
例 | 意味 | きものの部位等 |
---|---|---|
襟を正す | 乱れた衣服を整える。事に当たって、気持ちを引き締める。 | 襟:衣服の首回りの部分 |
折目正しい | 礼儀正しい。 | 折目:衣服などを折りたたむときにできる筋 |
袖触り合うも多生の縁 | 道で見知らぬ人と袖が触れ合うのも深い宿縁に基づくものである。 | 袖:両腕を覆う部分 |
袂を分かつ | 行動を別にする。 | 袂:袖の垂れた部分 |
辻褄が合う | 前後がきちんと合って、筋道が通る。 | 辻:縫い目が十文字に合うところ 褄:裾の左右が合うところ |
帯に短し襷に長し | 中途半端でどちらの役にも立たない。 | 帯:腰のあたりに巻く細長い布 襷:袖や袂がじゃまにならないよう背中で交差させ両肩にまわして結ぶひも |
紺屋の白袴 | 専門としていることについて、それが自分の身に及ぶ場合には、かえって顧みないものである。 | 紺屋:布地の染色を職業とする家や職人 白袴:染めていない袴 袴:腰から下を覆う衣服 |