きものは長い歴史の中で受け継がれてきた、日本が世界に誇る民族衣装である。「きもの」は、「洋服」に対する言葉として、「和服」を指して用いられ、今では「kimono」として国際的に通用する衣装になっており、外国の方がきものを買い求めることも少なくない。
京都は、山紫水明の自然、1200年を超える歴史の中で人々が築いた景観が相俟って、美しいまちを形成している。そして、京都の人々は、自然に対する畏敬と親しみの念を持ち、四季の移ろいを大切にしながら、豊かな文化を創造してきた。きもの文化は、このような京都の自然、まち、人々により育まれた。
また、きものは、茶道、華道、香道、能・狂言、日本舞踊といった、我が国固有の文化とともに、発展してきた。現在でも、京都には、多くの寺社の本山・本社、芸道や芸能の家元、花街、町家など、「和」の文化の源泉が存在しており、京都は日本のきもの文化の中心となっている。
その歴史は、平安時代からの宮廷を中心とした「みやびの文化」の広がりとともに、様々な技術・技法・意匠を用いた手工業が発達、集積してきた。なかでも、京都の伝統産業を代表する「西陣織」は、平安京に設けられた「織部司」がもととなっており、その高い技術は世界的に認められている。「京友禅」は染色技術が発達した江戸時代に創案され、その華麗な意匠は、憧れとなっている。京都のきものの生産工程は、多品種少量の高級品生産に応えられるよう、分業が著しく発展しているのが特徴である。
京都では、歴史や文化を背景に、繊細な職人の技による、形、色、模様のすべてに和の文化の粋が投影された、日本の美意識の集大成ともいうべき、伝統と格式を備えたきものが、維持継承されている。
このようなきもの文化は、最大の生産地、集散地としての強固な産業基盤の支えにより発展し続けているが、近年、生活様式の変化などにより、きものの消費は落ち込み、後継者の不足で貴重な技術が年々失われるなど、その基盤が揺らいでいる。
一方、和の文化を再評価する気運の高まりとともに、和のエッセンスを取り入れつつも、格式にこだわりすぎず、現代的なファッション感覚で気軽にきものを楽しみたいというニーズが高まっている。そして、京都は、きもの文化の中心として、こうしたニーズに応える新たなきもの文化を創出し、全国へ発信していく役割が期待されている。
「伝統の継承」と「新たなきもの文化の創出」、京都には二つの面が求められているが、伝統を守りつなぎながら、時代の変化に即して新たな文化を創出し、両者の共生を図るなかで、懐の深い重層的な文化を作り上げてきた姿こそが、京都のきもの文化である。
我が国には日常的に民族衣装であるきものを着る習慣が今も残り、また民族衣装を大切にしようという動きが広がっている。グローバル化が進んだ現代において、海外の人々をも魅了する、四季の変化に富んだ豊かな風土に育まれた独自の感性が凝縮された、和の文化を象徴する存在としてのきものは、市民の誇りであり、守り継がなければならない我が国の貴重な財産である。
京都、そして日本になくてはならないきもの文化が、悠久の歴史が育んできた優れた美意識、伝統の神髄を継承しながらも、現代の感性で意匠や着こなしを変えつつ、未来にわたって市民生活の中で愛され続けていくよう「京のきもの文化 -伝統の継承と新たなきもの文化の創出」を“京都をつなぐ無形文化遺産”に選定する。