項目 | 内容・特徴 |
神饌仏供(しんせんぶっく)の菓子 | 神仏へのお供え物には、ほとんどの場合、果物や菓子が含まれる。
古代の米食法の一種といわれる粢(しとぎ)[1]、唐菓子などは、現在も神饌の中に見られる。神々にお供えした物を下げていただく直会(なおらい)は、共食(きょうしょく)[2]による神とのコミュニケーションとされる。 江戸時代には、各社寺の御紋を木型で押した御紋菓(ごもんか)が作られるようになり、社寺御用達の菓子屋が御紋の菓子型を持ち、供え物の落雁(らくがん)などを作ってきた。 落雁によく似た菓子に、地蔵盆のお供え物にする白雪糕(はくせんこう)があるが、夏の終わりに体力を消耗した子どもたちの栄養補給のため、お下がりとして配られたともいわれる。 また、家庭内で手作りされるものとして、彼岸にお供えするぼたもち、おはぎなどがある。 |
門前の菓子 | 神社仏閣の参詣者のため、門前の茶店で菓子が供されてきた。
『毛吹草(けふきぐさ)』[3](1645年刊)には、清水坂炙餅(やきもち)、御手洗団子(みたらしだんご)、大仏餅、茶屋粟餅、愛宕粽(あたごちまき)、真盛豆(しんせいまめ)などがあげられており、粟餅(北野天満宮近く)や御手洗団子(下鴨神社近く)などは、今も作り続けられている。 また、京都と諸国を結ぶ主要な街道の出入口は京の七口(ななくち)と呼ばれ、鳥羽口から鳥羽街道、大原口から鯖街道、鞍馬口から鞍馬街道など、人や物資の行き交いが盛んな街道筋でも、茶店で菓子が売られてきた。 |
年中行事にまつわる菓子、季節菓子 | 季節が移ろう暮らしの中、普段通りの日常を「ケ」の日、年中行事や祭礼などを行う日を「ハレ」の日とし、日常と非日常を上手に使い分けてきた。年中行事は、宮中で行われていた行事が、武家社会、さらには一般庶民にまで普及したものが多いが、季節感を代表し、生活にリズムをつけるものとして大切に受け継がれている。無病息災などを願って行われる行事には、それぞれにまつわる食べ物やしつらい、しきたりがあるが、その中でも、季節感あふれる菓子が重要な役割を担っている。
(例) ◆花びら餅(1月) 宮中の正月の行事食を原形とし、味噌餡と砂糖で煮たごぼうを白餅で挟んだ菓子で、茶道の初釜に用いられ、戦後、正月の菓子として広まっている。 ◆椿餅(1~2月頃) 餡入りの道明寺(どうみょうじ)生地を椿の葉で挟んだ菓子 ◆鶯(うぐいす)餅(2~3月頃) 餡入りの餅や求(ぎゅう)肥(ひ)に青きなこをまぶし、鶯を表した菓子 ◆引千切(ひちぎり)(3月) 雛祭りに出される、こなしや外郎(ういろう)の上に餡などをのせた菓子。名は端をひきちぎる形から。 ◆ぼたもち(3月) もち米などを半つきにし、周りに餡などをまぶした菓子。春の彼岸の頃に食べ、牡丹の花に見立ててぼたもちという。 ◆蓬餅(よもぎもち)(3~4月頃) ゆでた蓬の若葉を入れてついた餅で餡をくるんだ菓子 ◆桜餅(3~4月頃) 餡入りの道明寺(どうみょうじ)生地を桜の葉で挟んだ菓子。関東では小麦粉生地を薄く延ばして焼いたものを用いる。 ◆花見団子(3~5月頃) 桜の季節に食べる、赤・白・緑などの3色で、彩り鮮やかな菓子 ◆粽(ちまき)、柏餅(かしわもち)(5月) 端午の節句に厄除けを願って食べる。粽は、笹の葉で、米粉などで作った餅や葛練(くずねり)などを包んだ菓子。柏餅は、餡を包んだ餅を柏の葉で巻いた菓子 ◆水無月(みなづき) (6月) 氷をかたどった三角の外郎(ういろう)に小豆を散らした菓子。6月30日の厄除けの行事「夏越の祓(なごしのはらえ)」にちなんで食べる。 ◆あんころ餅/土用餅(7月) 餡でくるんだ餅。暑さ負けしないよう夏の土用の入りに食べる。 ◆お迎え団子(8月) 精霊迎えのためのお盆菓子。米粉などで作った白い団子をお供えする。 ◆落雁(らくがん)・白雪糕(はくせんこう)(8月) 地蔵盆の供物。白雪糕は、うるち米ともち米を粉にして砂糖などをまぜて蒸し固めた干菓子。餡入りのものもよく用いられる。 ◆月見団子(9月頃) 月見に供える団子は、家庭で作ることも多い。京都では、戦後、団子を餡でくるんだ里芋の形をしたものがよく見られる。
◆おはぎ(9月) ぼたもちと同じ菓子であるが、秋の彼岸の頃に食べるものは、萩の花に見立てておはぎという。 ◆着綿(きせわた)(9月) 重陽(ちょうよう)の節句にちなみ、菊の花に真綿を置き、この綿で身をぬぐって長寿を願う宮中の風習を、菊と綿で表した茶席菓子 ◆亥の子餅(いのこもち)(11月頃) 旧暦10月の亥の日に、多産のイノシシにあやかり、無病息災と子孫繁栄を願って食べる菓子 ◆お火焚き饅頭(おし(ひ)たきまんじゅう)(11月) 11月を中心に社寺や町々で行われる「お火焚き」に合わせ、厄除け・無病息災を願って食べる、火焔玉(かえんだま)の焼印がある菓子 |
式菓子(しきがし)、引菓子(ひきがし) | 儀式、典礼をもととした慶弔諸事の引き出物に供される菓子類。結婚、出産、入学、卒業、葬式など人生の通過儀礼の祝儀・不祝儀に用いられる紅白・黄白の饅頭、松竹梅、鶴亀の意匠の菓子、えくぼなどがある。
京都では、結婚後の挨拶まわりでは、薯蕷(じょうよ)饅頭[4]「お嫁さんのおまん」を、はりばこに水引をかけたものに花嫁の名前入りの名刺をのせて、漆塗の万寿盆(まんじゅぼん)[5]に袱紗、風呂敷をかけて配る慣わしが伝わる。 |
蒔菓子(まきがし) | 能、舞踊などの会に、お配りものとして用いる菓子類。伝統芸能の曲目を題材にして作られる。 |
贈答の菓子 | 江戸中期(18世紀)には、民間でも贈答文化が定着していた。歳暮、見舞、土産、返礼などが広く行われるのは、日本文化の特徴の一つで、菓子が贈られることが多い。
土産菓子として有名な八ツ橋は、明治時代に京都駅で売られはじめたことから、全国に知られるようになった。 |
工芸菓子、飾り菓子 | 菓子の材料を使用して作る鑑賞用の菓子。高度な技術を駆使し、山水花鳥風月などを写実的に表現する。博覧会や展示会などで陳列される。 |
[1] 粢-水に浸した生米を砕いて粉にし、こねて固めたもので、餅の原型
[2] 共食-神に供えたものを皆で食べあい、神と人間、また集団の連帯を強めようとするもの
[3] 毛吹草-俳諧の作法を論じた書物で、季語等とともに諸国名物を収録(松江重頼 著)
[4] 薯蕷饅頭-米粉等や砂糖、すりおろした山芋を生地に用いた饅頭
[5] 万寿盆-花嫁が結婚後の挨拶回りをする時に使う家紋入りの盆