暮らしの中の菓子文化

京都には、宮中の行事に由来する菓子が多くある。夏越の祓(なごしのはらえ)に食する「水無月(みなづき)」も氷室の氷を口にして暑気を祓う宮中の行事に由来し、明治以降、氷のかけらを表す三角形の外郎(ういろう)に魔よけの赤小豆をつけた現在のような形の菓子を食する風習になったといわれる。

また、「おまん屋はん」「お餅屋はん」の菓子として親しまれてきた饅頭や餅菓子をはじめ、おはぎ、団子、わらび餅、白玉を入れた汁粉、飴、きんつば、あられ、おかき、駄菓子などの日々の「おやつ」※は、お茶うけという言葉があるように、茶とは切り離せないものとして、番茶などと合わせていただき、家族の団らんに彩りを添えている。

地域の家々と軒を連ねてまちなみに溶け込んだ「おまん屋はん」などの店先には桜餅、蓬餅(よもぎもち)、水(みず)羊羹(みずようかん)、栗餅などの季節の菓子が毎朝並べられる。こうした菓子は、茶席菓子等に比べると餡より餅などの生地の割合が多く、また塩味をつけているものもあり、間食にも適している。

京都の暮らしの中で、お供えや客のもてなし、お祝い、年中行事などのしきたり、町内の集まりなど、その場に応じて添えられる菓子は、季節を彩りながら、人の心を表現したり、その場の雰囲気を盛り上げたり、人間関係を円滑にするコミュニケーションの道具として上手に使われてきた。

地域の行事やしきたりと結びついた菓子の多くは、地域によって作り方や用途にも違いがある。人と人のつながりを大切にしながら地域に根差した店で作られることから、店の廃業などに伴い地域文化の継承が困難になることも危惧されている。

※ 江戸時代、午後2時から午後4時頃をいう八つ刻(やつどき)に間食をしたことから、やがて間食全般を「おやつ」と呼ぶようになった。「おやつ」は、戦前までは、主に都市部で使われ、全国的には「小昼(こびる)」、京都では「けんずい」とも呼ばれていた。

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