「京の食文化」-京都市民すべてがその担い手
2014年8月21日
「和食」文化の保護・継承国民会議会長/
京都をつなぐ無形文化遺産「京の食文化」審査会議長 熊倉 功夫
昨年より「京都をつなぐ無形文化遺産」に「京の食文化」を選定する委員会に加えて頂き、なかなか大変ではあったが、おかげさまでとてもよい勉強ができた。
私は若いころから食の歴史に興味があったが、直接の京都の食文化史に関係したのは、村井康彦先生が編集された『京料理の歴史』(1979年 柴田書店)の一章を書かせて頂いたのがはじまりで、それがのちにNHK人間講座「京料理1200年和の味の追求」の番組を2004年に担当することにつながった。この時のテキストがのちに吉川弘文館から出版した『日本料理の歴史』(2007年刊)となった。私のような外の人間が京料理や食文化について書いたり語ったりすることはおこがましいという思いがあるが、ここまでこられたのは、京都の料理人の方がたをはじめ、京都人のご支援の賜である。
京都の食文化を考える時、外部からの目で見ることの利点もあったように思える。私が調べた範囲でいうと「京料理」という言葉は意外と新しい。そもそも京都は食の点で江戸や大坂に一歩譲るところがあって「喰いだおれ」といえば大阪で、京都は「着だおれ」である。京料理が日本料理を代表するブランド化に本当に成功したのは戦後の60年の歴史にあると、京都の方から相当反発を受ける覚悟でさきの本にも書いた。しかし京料理がこうした地位を得るには、それを必然たらしめる要素が京都に備わっていた。すなわち、1200年の歴史である。
京都府の「京料理」無形文化遺産保持者に認定された高橋英一氏が早くから述べているように、京都には有識料理、精進料理、懐石料理、会席料理、おばんざい、と日本料理のすべてのスタイルがあって、その中に京都ならではの工夫が詰まっている。長い歴史の中で培ってきた文化があればこそ、京料理が日本一の地位を得るに至ったのである。そして今回の京都市の取組みはもっと幅広く「京の食文化」である。高級料理から庶民の食まで、京都らしい郷土の食が指定された。この方式は、ユネスコに登録された「和食:日本人の伝統的な食文化」と同じ方式で、むしろ庶民の日常の食に重点があり、京都市民すべてがその担い手という点に特色がある。