「京の食文化」
2014年10月1日
NPO法人日本料理アカデミー理事長 村田吉弘
京都の野菜に賀茂茄子があります。賀茂茄子は賀茂で採れた茄子のため、賀茂茄子といいます。上賀茂神社や下鴨神社など、この賀茂といわれる一帯で育てている茄子です。この茄子は丸くて、一見は可愛らしいですが、実際はふわふわしていないのが特徴です。
近頃は賀茂一帯も住宅地になり、上賀茂でほんの少し栽培されているのみです。そのため賀茂以外の土地で栽培された、賀茂茄子に似たものが賀茂茄子として販売されておりますが、それは違いますね。賀茂茄子のようなものです。
野菜は、気候、風土、土地柄が違いますと、同じ種を播いても、その土地なりのものになりますから、それは似ていても、非なるものです。その代表が丸茄子です。丸茄子は聞くところによりますと、賀茂茄子に似せて栽培されているそうですが、味も身の具合もまったく別のものです。
京都の名物に賀茂茄子の田楽があります。田楽というからには、串をうって焼かなくてはなりません。賀茂茄子は実がしっかり詰まっているため、串をうって焼くことができたのだと思います。たんぽぽみたいなもので油をぽんぽんぽんぽん塗りながら、直火にあぶって、じっくり焼きあげます。結構時間がかかりますが、それでも串から落ちずにしっかりしています。賀茂茄子は、こういう田楽にもってこいの茄子なのです。
京料理の賀茂茄子の田楽は美味しいということで、今や日本全国に賀茂茄子田楽があります。しかし賀茂茄子が手に入らないからといって、賀茂茄子まがいのことをしていては、本物の味は伝えられません。本当の賀茂茄子の田楽を知らない人は、これが田楽なんだと間違った解釈をしてしまうでしょう。素材が調理法を編み出し、発展させ、そのうちに素材が姿を消して、調理法だけが残る。ここに日本料理の考えるべき点があると思います。
なぜ、京都でないところで、京都の料理を販売するのでしょうか。その土地のいい野菜や料理があるでしょう。ここは踏んばって、土地の筋を通した方が良いと思います。
昨今、和食が無形文化遺産に登録されたことにより、難題とされていたことが現実になりつつあります。和食の調理技術や歴史、慣習のほか、おもてなしの心などを総合的に学ぶ高等教育機関が京都に設置されようとしてます。和食に関心を持った多くの人たちが学術的に学ぶことがきます。
このような制度を整え、現実にさせていくことが、多くの人々に「京の食文化」、ひいては、日本各地の食文化を理解していただく上で重要になっていくと考えております。