「京の食文化」の選定にあたって

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 三方を緑豊かな山々に囲まれ、鴨川をはじめとする清流の恵みを受けながら、鮮やかに季節が移ろう京都は、平安京遷都以来、千有余年の永きにわたり都が置かれ、日本の政治、文化、宗教の中心地として栄えてきた。その中で、人々は暮らしの営みを積み重ね、公家、武家、僧侶などとの文化的なかかわりから、その行事やしきたりが日常の生活に定着するなど、多様な文化の影響を受けながら、食文化をはじめ地域ごとに豊かな京都の町衆文化を育んできた。

良質の水と肥沃な土壌に恵まれ、自然との共生を大切にしてきた京都は、消費地である都市部と生産地である農村部が近接し、食を通じた循環を作り出してきた。その中で、仏教思想とも相まって、野菜を中心とした食文化を育むとともに、都であった京都には、琵琶湖や近海だけでなく遠く北海などから水産物が運ばれ、海から離れていたことが製造技術や調理法に創意工夫をもたらし、京都の食文化を発展させた。

また、全国から多様な文化が流入し、茶の湯や生け花をはじめとする生活文化が京都で栄えたことに加え、漆器や陶磁器、木竹工芸品等の生産が発達していたことから、季節感やおもてなしの心、本物へのこだわりといった精神文化が京都の食文化にも浸透していった。

こうした食文化の歴史を持つ京都において、人々は、食に対して、「いただきます」「ごちそうさま」といった、自然や命、食に関わる人への感謝、「もったいない」という気持ち、食材を無駄なく大切に使う「始末する」心を持ち、本物・本質へのこだわりを忘れず、おもいやりとおもてなしの心で、知恵と創意工夫を凝らしながら、季節感を大切にして料理を作り、それを五感で味わってきた。

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 京都における食は、ご飯を主食としつつ、旬の野菜を中心に乾物や大豆加工品、漬物などの副食を上手に組み合わせた一汁三菜が基本であり、食材の持ち味を引き出す出汁(だし)をベースにした健康的なものとなっている。京都の食文化の根底にある家庭の食卓には、代々受け継がれてきたおかず、いわゆる「おばんざい」を中心に、食生活に節目をつけるおきまり料理や暦や年中行事に合わせた行事食などが並んでいる。

今日の京都の台所を担っているのは、生産者の創意工夫により育まれてきた野菜、乾物や豆腐、湯葉、生麩などの加工品、漬物、棒だらや塩鯖などの塩干物や川魚、白味噌、うす口醤油などの調味料、そして、それらを提供する市場や商店街などである。また、京都から全国に広まったとされるお茶、名水と匠の技が育んできた清酒、年中行事や生活文化の中で発展し、茶の湯により一層磨きがかかった生菓子や干菓子などが食卓を飾り、彩りを添えている。さらに、おもてなしの心は、洗練された技術と美意識をもとに、五色※1、五味※2、五法※3を五感※4で愉しむ京料理を作り上げるとともに、料理を盛る器や床の間、美術工芸品、庭園などのしつらえと併せて京料理を味わうことができる料理屋、商家や寺院、お茶屋などに料理を出前する独特の仕出し文化を生み出している。

今日、食を取り巻く自然環境が変化し、また、利便性を追求する風潮により、食に対する価値観が大きく変容している中、食を通じた家族のつながりの希薄化を含め食文化のあり様が問われている。この危機的な現状を踏まえ、食生活の原点である家庭での食事や学校給食などでの取組を更に広げ、京都の長い歴史の中で育まれた食文化を未来につなげていくスタートとして、「京の食文化-大切にしたい心、受け継ぎたい知恵と味」を“京都をつなぐ無形文化遺産”に選定する。

平成25年10月

※1五色…青、黄、赤、白、黒
※2五味…甘味、酸味、塩味、苦味、うま味
※3五法…切る、焼く、煮る、揚げる、蒸す
※4五感…視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚

京の食文化(京料理)

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